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童話。 ちょっとだけ、スピリチュアル。
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こちらは 本編とは異なる【読み切りの短編】となります。








■ ■ ■ 滝山 ■ ■ ■



その日は いつもと違う道を 歩いてみたくなった。


重たい買い物袋を手に提げて、手入れの行き届いた路地裏に歩を進めてみる。

右手には小さな寺、左手には庭木が美しく花を咲かせる家々。

卒塔婆や墓石が 低い白壁から 頭を覗かせている。

なぜだろう。 薄気味の悪い感じは しない。



しばらく直進し、やがて突き当たり右に曲がると、寺の門が現れる。

門の脇にそびえる 山桃の雌雄の大木に

「寄っていきなよ・・・」と 囁かれている気がして

誘われるまま、入ってしまう。


地元七福神巡りの札所に なっている寺だと ふと思い出した。

福禄寿に軽い会釈をして、正面の本堂脇から 墓地へと進む。


「お参り順」の立て看板が立っていて、妙な寺だ。


描かれた矢印に沿って、墓の間を進んでいく。

西に傾きはじめた 初夏の太陽の 黄金の日差し。


蒸し暑い。

つい最近 供えられたらしい仏花も 

うんざり顔で うなだれている。



矢印看板は 右へ左へと 墓地の奥へ と 誘う。


一際 おおきな区画に 古めかしい墓が 三つ鎮座している。

ここが、案内先の 最終地点のようだ。


【心静かにお参りください】と看板。


目礼をして 手を合わせる。

腕に下げた買い物袋が 食い込んで すこし痛みを覚える





涼しい風が 頬をかすめて行った。


『よく参ったな』三つの墓石の正面がそう言っている気がする。

『久しいのう、お前が来てくれるのを 楽しみにしていたのだぞ』


自分の心が 墓石の主の語りかけに 穏やかに 答える。


(はい、お久しぶりでございます。)


勝手に返事をしている。そんな感覚・・・



『姫様は息災か、のう…。今も お側におるのだろう、お前。』

墓の主は誰かを気にかけている様子。




・・・姫様・・・ ああ! 【あの人のこと】、か?・・・


(はい。・・・お疲れの毎日なれど。

 ご心労は相変わらずで ございます。)



『なんの因果か、

 【殿方を選んで生まれる】のも あのお方らしい が・・・

 お前、しっかりと お支えしておるか?』



私の口元に 思わず苦笑いがこぼれる。

状況はすべてお見通し、だろうに。。。



墓石の上に浮かぶ 橙色の空雲の合間から

特大柑橘のような夕日が 目に刺さる。



『しかし、お前が 姫と一緒に生きることを 選んでくれたことは

 私にとっても まこと、ありがたいこと。』


墓の主が 感謝の念を 送ってくれている。




(なにをおっしゃいます。もったいのうございます)


・・・いつの時代の話、だよ・・・


心の中の やりとりの自然な流れとは 異なって

思考は 相変わらず 疑問符を 掲げている。



『幼い姫様が 入城なさった日・・・ 遠い昔のことだの。

 おまえも 初々しかったな・・・』



墓の主は クスクス笑っている。

『【そちらの世の飯】は さぞ旨いと見えるな、のう?』


病気を数年前にして以来、ダイエットも運動もろくに成果が出ず

過去最も重い身体を抱えてしまっている。



(恐れ入ります・・・)つられて つい、苦笑い。



『・・・わかっておる。

 お前も 苦労しているのは 十分に、わかっておる。』



墓の主は 優しく 温かい。


『身体を愛しめよ。よいな。・・・【かなで】』



はっとした。

【かなで】・・・ 奏・・・?!


とても とても。 ・・・懐かしい感じ が した。

呼ばれた感覚に あまりに現実味があり 

白昼夢を 見ていたかのような・・・ 錯覚を覚える。

衣擦れの音が聞こえた・・・ 気がする。




(恐れ多いお言葉でございます)

併せた手に 額を近づけ 深く頭を垂れてしまう。


墓石を見つめると、古風な着物を 着た女性の

後ろ姿が 透けて浮かぶような 印象があった。



『のう・・・ 

 たまには私に会いに来ておくれ。気が向いた時で良い』

女性の後ろ姿が、墓石に溶け込む。



(はい、かしこまりました。ありがたいことで。)



『では、また。・・・姫様をしかとお支えしておくれ。頼むぞ。』



改めて、深く一礼をする。

空はやや紫がかってきているものの、

まだまだ まとわりつくように暑い。





名残惜しい 気持ちで、振り返ると。


墓石の脇の 説明看板に 書かれていた。





~  大奥 御年寄 滝山  ~







  (終)





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