忍者ブログ
童話。 ちょっとだけ、スピリチュアル。
[85]  [84]  [83]  [80]  [78]  [77
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

明日はマンションの配管清掃日だ。

ひと月前から管理会社の案内で
屋内入室を要望されている。


「・・・・・・・・・めんどくさいぃ・・・・・・・・」

見ず知らずの他人に
自分の最も安らぐテリトリーである自宅に
侵入されるのが、まず嫌。とにかく嫌だ。

自分でも わかっているが「整頓が苦手」だ。
それでもゴミもきちんと捨てるし、
適当ながらも 最低限の掃除はする。
でも「片付けものが とにかく苦手」なのだ。


法定の非常用設備点検は年2回あるから
年1回くらいは逃れても なんとかなるが
配管清掃は2年に1度。
これを怠って 万が一、
詰まりによる水漏れでも引き起こしたら
被害を及ぼした他の住宅への弁償・復旧費用とは別に
管理会社に賠償請求をされかねない。

なので。こればっかりは・・・逃れられないのだ。
集合住宅を選んだ自分の義務。



業者入室にあたり 部屋を「とりあえず、なんとかしたい」。


わかっている。
けれど、面倒くさい。疲れる。

しかも、真冬のこの時期は とにかく気持ちが沈む。動けない。

清掃日は明日だと、承知の上での、ささやかな抵抗をしている。


ベッドの中、悶々と部屋の片付けについて考えながら
寝返りを ただただ 繰り返していた。



「・・・・・出来る範囲でやればいいだろう。それでいい。」

声がする。

人あらざるもの・・・・気配。 何か・・・来た。



「それならできるだろう。手伝ってやるから。起きなさい。」

声の主は、呆れ顔をしつつも 笑っている。


金色の翼を背負った 黒髪短髪の端正な顔立ちの男が「見える」。
ロイヤルブルーの瞳は 一応笑っているが、
口元に苛立ちの色が浮かぶ。

「彼が何者なのか」を本能が理解した。

初対面でいて、そうでもないような・・・懐かしい友人であり・・・


そして、私がこのままで済まされない、ということも即時に理解した。



・・・・・これ、流石に・・・・ ちょっと、ヤバイかも。

うすら笑いを浮かべて、男の様子を布団の中から伺ってみるが

「・・・ったく!!! いい加減に さっさと起きろ!」

怒声を浴びせられて 叩き起こされた。







それは 的確な指示だった。






「まずは、台所だ。そんなに汚れていないのだから。」

気になった汚れに私が執着して擦り始めると、すぐさま叱られる。

「だ・か・ら!
 そういうところは 大して問題じゃないだろう!
 気になっていたなら 暇なときにやっておけ!
 汚れ落ちを楽しんでる暇は、今は無い!!!!!」


セスキ入り電解水の威力に感動する私を叱責する。


「だが・・・
 まあ、そういうことを面白く思えるようになってくれれば・・・」

うんうんと、頷き 男は少しだけ口調を柔らかくしてくれた。


たっぷり二時間近く、つきっきりで台所の片付けを指示された。


「よし。それでとりあえずいい。
 あまり欲張ると あとで疲れる。
 つぎはテーブルの上を、・・・・整理しようか。
 適当なところで これも見切りをつけよう。」


翼の男は本が煩雑に積載して地層を作るテーブルを前に
うなだれて 大きくため息をつきながらも 
ひきつづき 指示をしてくる。

「そこそこ、で。終わりでいいぞ。
 清掃員に見栄を張っても、仕方がないだろ。
 彼らにこの部屋の煩雑さを いちいち気にする暇もない。
 清掃員の作業に対して 不快さを与えない程度の
 迎える準備ができれば、・・・それでいいのさ。
 ・・・・・と。今は、割り切れ!」


拭き掃除と本の整頓を同時進行で地道に
テーブル天板がだんだん広くなる。


そうそうと、頷きつつ、翼の男は風呂場を気にしているようだ。


「これからおまえは 一年かけて、部屋を片付けていけ。
 今日はその初日だな。」



いい加減、汗をかき疲れてきたし、お腹もすいた。

「ああ、休憩かい?・・・いいんじゃないか。
 あとで、洗面台下の開き戸の中を整理だ。」


レトルトのカレーを湯煎し、冷凍していた飯をレンジで温める。

簡単な昼食。ほうれん草のカレーは好物だ。

横目でDVDの山を眺め、カレーを口に含む。
ものが捨てられない自分の有り様に、うんざりする。


男は私のカレーをちょっとだけ物欲しそうな表情で見下ろす。
まだ、帰る気はないらしい。

「部屋の煩雑さは、君の疲れ そのものの反映だな。
 ゆっくり片付けていくといい。
 手伝ってやるから。
 体調も良くなるぞ。」


私の呼称が「おまえ」から「君」になっている。

「昔っから、そういうところは変らないのだな。
 何万回生まれ変わろうが、残念な癖は残るのだなぁ・・・
 呆れるよ。ホントに・・・」



皿をキッチンで洗い、お茶を淹れ一休み。


洗面台の下・・・ 魔窟だな・・・

考えて私は憂鬱になる。



覚悟を決めて腰を上げ、手始めにDVDの山を整えた。
片付いた、とは言えないまでも整頓している体裁になった。


問題の洗面台の下に取り掛かる。
すぐに思わぬ発掘物があった。

「ほう!・・・無駄な買い物をしなくて済んだじゃないか。」

男は窮屈そうに前屈して、私の取り出したものを指す。

重曹5キロ相当の未開封品。これはありがたい。
どうして、忘れていたんだろう・・・


「君はリスみたいな習性してるんだから。
 ときどき、こうして覗くべきだ。」

にやにやしながら私の背を軽く叩く。
してやったり、の したり顔に少しだけ腹立たしくなる。


「中が見通せる程度でいい。無理するなよ。
 片付けるのではなく、ものを整える。それでいい。」


綺麗とは言えないまでも・・・そこそこ片付いた。
一人じゃ、正直・・・ 出来なかったと、思う。


私のそんなささやかな感謝のキモチに
翼のオトコは満足そうだ。

そして親指で洗面台の向かいの浴室を指差す。

「後で湯船に浸かって疲れを取るといい。
 ついでに排水口をきれいにしておけば、とりあえず今日は終了だ。
 頑張った。お疲れさん。」


満足そうに微笑むと、男は追加の支持をしてきた。

「ああ。・・・明日の朝、台所の排水口を洗い、
 床に掃除機をかけて、それでヨシ。
 それでは。
 また・・・・片付けに付き合っても良いぞ。」


はいはい。
私は肩をすくめて、翼を広げて背を向けた男に小さく手を振る。

「いつでも歓迎する♪ 『ウリちゃん』。
 君が掃除と片付けが得意、とは全く知らなかったけど・・・
 ホントに助かった。ありがとね!」

振り向いたロイヤルブルーの瞳を満足げに細めて微笑み、
肩こりをほぐす様な仕草。

「・・・しかし。昔っから、変わらん。君って奴は。」


男はそう言うと 姿を消し。

わずかばかり 爽やかな香りが残った。




  (終)





☆クリックでの応援 & いつも お読みいただきまして ありがとうございますっ☆

 お楽しみいただけましたら ↓ぜひ「ONEクリック☆」をお願いします♪


にほんブログ村 小説ブログ ハイファンタジーへ
にほんブログ村http://novel.blogmura.com/novel_fantasy/







☆.。.:*・ ☆.。.:*・ ☆.。.:*・ ☆.。.:*・ ☆.。.:*・













PR
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
リンク
にほんブログ村 小説ブログ ハイファンタジーへ
にほんブログ村" target="_blank">管理画面
フリーエリア
クリックで救える命がある。
最新コメント
プロフィール
HN:
cael
性別:
非公開
バーコード
RSS
http://ping.blogmura.com/xmlrpc/30c7bprlrvco
ブログ内検索
リンク
にほんブログ村 小説ブログ ハイファンタジーへ
にほんブログ村" target="_blank">管理画面
フリーエリア
Links for Good-->
フリーエリア
フリーエリア

Copyright © どこまでも深く碧い宇宙 All Rights Reserved.
Material & Template by Inori
忍者ブログ [PR]