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童話。 ちょっとだけ、スピリチュアル。
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明日はマンションの配管清掃日だ。

ひと月前から管理会社の案内で
屋内入室を要望されている。


「・・・・・・・・・めんどくさいぃ・・・・・・・・」

見ず知らずの他人に
自分の最も安らぐテリトリーである自宅に
侵入されるのが、まず嫌。とにかく嫌だ。

自分でも わかっているが「整頓が苦手」だ。
それでもゴミもきちんと捨てるし、
適当ながらも 最低限の掃除はする。
でも「片付けものが とにかく苦手」なのだ。


法定の非常用設備点検は年2回あるから
年1回くらいは逃れても なんとかなるが
配管清掃は2年に1度。
これを怠って 万が一、
詰まりによる水漏れでも引き起こしたら
被害を及ぼした他の住宅への弁償・復旧費用とは別に
管理会社に賠償請求をされかねない。

なので。こればっかりは・・・逃れられないのだ。
集合住宅を選んだ自分の義務。



業者入室にあたり 部屋を「とりあえず、なんとかしたい」。


わかっている。
けれど、面倒くさい。疲れる。

しかも、真冬のこの時期は とにかく気持ちが沈む。動けない。

清掃日は明日だと、承知の上での、ささやかな抵抗をしている。


ベッドの中、悶々と部屋の片付けについて考えながら
寝返りを ただただ 繰り返していた。



「・・・・・出来る範囲でやればいいだろう。それでいい。」

声がする。

人あらざるもの・・・・気配。 何か・・・来た。



「それならできるだろう。手伝ってやるから。起きなさい。」

声の主は、呆れ顔をしつつも 笑っている。


金色の翼を背負った 黒髪短髪の端正な顔立ちの男が「見える」。
ロイヤルブルーの瞳は 一応笑っているが、
口元に苛立ちの色が浮かぶ。

「彼が何者なのか」を本能が理解した。

初対面でいて、そうでもないような・・・懐かしい友人であり・・・


そして、私がこのままで済まされない、ということも即時に理解した。



・・・・・これ、流石に・・・・ ちょっと、ヤバイかも。

うすら笑いを浮かべて、男の様子を布団の中から伺ってみるが

「・・・ったく!!! いい加減に さっさと起きろ!」

怒声を浴びせられて 叩き起こされた。







それは 的確な指示だった。






「まずは、台所だ。そんなに汚れていないのだから。」

気になった汚れに私が執着して擦り始めると、すぐさま叱られる。

「だ・か・ら!
 そういうところは 大して問題じゃないだろう!
 気になっていたなら 暇なときにやっておけ!
 汚れ落ちを楽しんでる暇は、今は無い!!!!!」


セスキ入り電解水の威力に感動する私を叱責する。


「だが・・・
 まあ、そういうことを面白く思えるようになってくれれば・・・」

うんうんと、頷き 男は少しだけ口調を柔らかくしてくれた。


たっぷり二時間近く、つきっきりで台所の片付けを指示された。


「よし。それでとりあえずいい。
 あまり欲張ると あとで疲れる。
 つぎはテーブルの上を、・・・・整理しようか。
 適当なところで これも見切りをつけよう。」


翼の男は本が煩雑に積載して地層を作るテーブルを前に
うなだれて 大きくため息をつきながらも 
ひきつづき 指示をしてくる。

「そこそこ、で。終わりでいいぞ。
 清掃員に見栄を張っても、仕方がないだろ。
 彼らにこの部屋の煩雑さを いちいち気にする暇もない。
 清掃員の作業に対して 不快さを与えない程度の
 迎える準備ができれば、・・・それでいいのさ。
 ・・・・・と。今は、割り切れ!」


拭き掃除と本の整頓を同時進行で地道に
テーブル天板がだんだん広くなる。


そうそうと、頷きつつ、翼の男は風呂場を気にしているようだ。


「これからおまえは 一年かけて、部屋を片付けていけ。
 今日はその初日だな。」



いい加減、汗をかき疲れてきたし、お腹もすいた。

「ああ、休憩かい?・・・いいんじゃないか。
 あとで、洗面台下の開き戸の中を整理だ。」


レトルトのカレーを湯煎し、冷凍していた飯をレンジで温める。

簡単な昼食。ほうれん草のカレーは好物だ。

横目でDVDの山を眺め、カレーを口に含む。
ものが捨てられない自分の有り様に、うんざりする。


男は私のカレーをちょっとだけ物欲しそうな表情で見下ろす。
まだ、帰る気はないらしい。

「部屋の煩雑さは、君の疲れ そのものの反映だな。
 ゆっくり片付けていくといい。
 手伝ってやるから。
 体調も良くなるぞ。」


私の呼称が「おまえ」から「君」になっている。

「昔っから、そういうところは変らないのだな。
 何万回生まれ変わろうが、残念な癖は残るのだなぁ・・・
 呆れるよ。ホントに・・・」



皿をキッチンで洗い、お茶を淹れ一休み。


洗面台の下・・・ 魔窟だな・・・

考えて私は憂鬱になる。



覚悟を決めて腰を上げ、手始めにDVDの山を整えた。
片付いた、とは言えないまでも整頓している体裁になった。


問題の洗面台の下に取り掛かる。
すぐに思わぬ発掘物があった。

「ほう!・・・無駄な買い物をしなくて済んだじゃないか。」

男は窮屈そうに前屈して、私の取り出したものを指す。

重曹5キロ相当の未開封品。これはありがたい。
どうして、忘れていたんだろう・・・


「君はリスみたいな習性してるんだから。
 ときどき、こうして覗くべきだ。」

にやにやしながら私の背を軽く叩く。
してやったり、の したり顔に少しだけ腹立たしくなる。


「中が見通せる程度でいい。無理するなよ。
 片付けるのではなく、ものを整える。それでいい。」


綺麗とは言えないまでも・・・そこそこ片付いた。
一人じゃ、正直・・・ 出来なかったと、思う。


私のそんなささやかな感謝のキモチに
翼のオトコは満足そうだ。

そして親指で洗面台の向かいの浴室を指差す。

「後で湯船に浸かって疲れを取るといい。
 ついでに排水口をきれいにしておけば、とりあえず今日は終了だ。
 頑張った。お疲れさん。」


満足そうに微笑むと、男は追加の支持をしてきた。

「ああ。・・・明日の朝、台所の排水口を洗い、
 床に掃除機をかけて、それでヨシ。
 それでは。
 また・・・・片付けに付き合っても良いぞ。」


はいはい。
私は肩をすくめて、翼を広げて背を向けた男に小さく手を振る。

「いつでも歓迎する♪ 『ウリちゃん』。
 君が掃除と片付けが得意、とは全く知らなかったけど・・・
 ホントに助かった。ありがとね!」

振り向いたロイヤルブルーの瞳を満足げに細めて微笑み、
肩こりをほぐす様な仕草。

「・・・しかし。昔っから、変わらん。君って奴は。」


男はそう言うと 姿を消し。

わずかばかり 爽やかな香りが残った。




  (終)





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こちらは 本編とは異なる【読み切りの短編】となります。








■ ■ ■ 滝山 ■ ■ ■



その日は いつもと違う道を 歩いてみたくなった。


重たい買い物袋を手に提げて、手入れの行き届いた路地裏に歩を進めてみる。

右手には小さな寺、左手には庭木が美しく花を咲かせる家々。

卒塔婆や墓石が 低い白壁から 頭を覗かせている。

なぜだろう。 薄気味の悪い感じは しない。



しばらく直進し、やがて突き当たり右に曲がると、寺の門が現れる。

門の脇にそびえる 山桃の雌雄の大木に

「寄っていきなよ・・・」と 囁かれている気がして

誘われるまま、入ってしまう。


地元七福神巡りの札所に なっている寺だと ふと思い出した。

福禄寿に軽い会釈をして、正面の本堂脇から 墓地へと進む。


「お参り順」の立て看板が立っていて、妙な寺だ。


描かれた矢印に沿って、墓の間を進んでいく。

西に傾きはじめた 初夏の太陽の 黄金の日差し。


蒸し暑い。

つい最近 供えられたらしい仏花も 

うんざり顔で うなだれている。



矢印看板は 右へ左へと 墓地の奥へ と 誘う。


一際 おおきな区画に 古めかしい墓が 三つ鎮座している。

ここが、案内先の 最終地点のようだ。


【心静かにお参りください】と看板。


目礼をして 手を合わせる。

腕に下げた買い物袋が 食い込んで すこし痛みを覚える





涼しい風が 頬をかすめて行った。


『よく参ったな』三つの墓石の正面がそう言っている気がする。

『久しいのう、お前が来てくれるのを 楽しみにしていたのだぞ』


自分の心が 墓石の主の語りかけに 穏やかに 答える。


(はい、お久しぶりでございます。)


勝手に返事をしている。そんな感覚・・・



『姫様は息災か、のう…。今も お側におるのだろう、お前。』

墓の主は誰かを気にかけている様子。




・・・姫様・・・ ああ! 【あの人のこと】、か?・・・


(はい。・・・お疲れの毎日なれど。

 ご心労は相変わらずで ございます。)



『なんの因果か、

 【殿方を選んで生まれる】のも あのお方らしい が・・・

 お前、しっかりと お支えしておるか?』



私の口元に 思わず苦笑いがこぼれる。

状況はすべてお見通し、だろうに。。。



墓石の上に浮かぶ 橙色の空雲の合間から

特大柑橘のような夕日が 目に刺さる。



『しかし、お前が 姫と一緒に生きることを 選んでくれたことは

 私にとっても まこと、ありがたいこと。』


墓の主が 感謝の念を 送ってくれている。




(なにをおっしゃいます。もったいのうございます)


・・・いつの時代の話、だよ・・・


心の中の やりとりの自然な流れとは 異なって

思考は 相変わらず 疑問符を 掲げている。



『幼い姫様が 入城なさった日・・・ 遠い昔のことだの。

 おまえも 初々しかったな・・・』



墓の主は クスクス笑っている。

『【そちらの世の飯】は さぞ旨いと見えるな、のう?』


病気を数年前にして以来、ダイエットも運動もろくに成果が出ず

過去最も重い身体を抱えてしまっている。



(恐れ入ります・・・)つられて つい、苦笑い。



『・・・わかっておる。

 お前も 苦労しているのは 十分に、わかっておる。』



墓の主は 優しく 温かい。


『身体を愛しめよ。よいな。・・・【かなで】』



はっとした。

【かなで】・・・ 奏・・・?!


とても とても。 ・・・懐かしい感じ が した。

呼ばれた感覚に あまりに現実味があり 

白昼夢を 見ていたかのような・・・ 錯覚を覚える。

衣擦れの音が聞こえた・・・ 気がする。




(恐れ多いお言葉でございます)

併せた手に 額を近づけ 深く頭を垂れてしまう。


墓石を見つめると、古風な着物を 着た女性の

後ろ姿が 透けて浮かぶような 印象があった。



『のう・・・ 

 たまには私に会いに来ておくれ。気が向いた時で良い』

女性の後ろ姿が、墓石に溶け込む。



(はい、かしこまりました。ありがたいことで。)



『では、また。・・・姫様をしかとお支えしておくれ。頼むぞ。』



改めて、深く一礼をする。

空はやや紫がかってきているものの、

まだまだ まとわりつくように暑い。





名残惜しい 気持ちで、振り返ると。


墓石の脇の 説明看板に 書かれていた。





~  大奥 御年寄 滝山  ~







  (終)





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